1部リーグから2部Aリーグに舞台を移した今シーズン、『奪還』というチームスローガンを掲げて1年での復帰を目指して走り出しました。チーム体制はコーチ3名から4名へと組織し、トップチームだけでなく全チームに全力を注ぐ基盤を整えました。結果を求めながらサッカーに対する取り組みや姿勢、そしてオフザピッチへの働きかけと改善に着手し始めた頃…世界は、日本は新型コロナウイルスの感染拡大に恐怖を抱く危機的な状況にありました。

 本学サッカー部を含め、開幕へ向けていいスタートを切る準備をされていたところはたくさんあったと思います。しかし、「出鼻をくじかれた」どころではない、日常生活や命の危険さえも身近に迫る非常事態に不安が大きくなる一方でした。誰もがストレスを抱えながら我慢を続け、コロナウイルスの収束や元通りの生活を願って協力しあう姿、同じゴールを目指して心をひとつにする意識は日本全国で見られたのではないかと思います。サッカーとはかけ離れた生活を続けてもなお、その国民の姿や意識はどこかサッカーに似ているなと感じずにはいられませんでした。何かを達成するために本気で取り組む姿勢、必死で向き合う姿勢、それこそが結果を出すまでの過程でとても重要なんだということでした。サッカーから離されて改めて、本学サッカー部の創部を前に掲げた理念「尊重し、助け合い、競い合い、掴み取る」、「情熱を注ぎ、本気で取り組む」、「活動に関わるすべてに感謝し、地域とともに歩む」、この3つに重なっていることに気づきました。プレーすること、サッカーを楽しむこと、サッカーができること、日常ではサッカーの重みを感じる機会はあまりなく、それが当たり前になっていることが多いです。けれど、この新型コロナウイルスによって日常が変わりました。助け合うとか、本気で取り組むとか、感謝するとか、聞き流してしまいそうな言葉ほど本当に大切なのだと教えてもらいました。

 前置きが長くなりましたが、2部Aリーグの結果は4位となり、優勝も昇格も逃した形で『奪還』することはできませんでした。とても悔しく、そして大きな責任を感じています。戦力を考えても決して難しい目標ではなかったため、未達という結果は後期リーグのみというレギュレーションを攻略できなかったこと、チーム全体の底上げができていなかったことを主な要因として受け止めています。特に上位チームとの対戦において引き分けではなく敗戦してしまうことで昇格の可能性を下げ、大一番で勝ち切る勝負強さが発揮できませんでした。昇格するためには、その先の1部に定着していくためには、取りこぼしを少なくし、上位チームには勝点を与えない(引き分け以上)戦いが求められます。また、相手のシステムや戦術によって対応策を明確に提示し、トレーニングで事前に落とし込むという指導が必要だと感じています。最終節で得た手ごたえは良い経験としたいですが、一方でシンプルなサッカーで押し込んでくる相手に対する苦手意識を来年は払拭していかなければなりません。試合ごとに様々な成果や課題が出たので、それらを積み重ねてチームが目指す「アグレッシブかつスピーディなサッカー」を体現していくために、積極的な守備と分厚い攻撃を追求していきたいと思います。

 部員が120名ほどになり、スタッフがすべての部員に時間をかけて向き合ったり理解を求めたりすることが難しくなった今、トレーニングの指導と同様にチームマネージメントがとても重要な段階にきています。部員が色々な役割を担うことで組織の一員として機能しているという帰属意識や実感を増やしていくことが大切なのかなと考えています。責任感や自覚が主体性の第一歩であり、それがチームづくりにつながっていくことでしょう。今年はまさにコロナウイルスによって組織力の低さを痛感しました。平時では明るみにならないことでも、有事の際には本当の意味で組織力やリーダーシップが試されることを学びました。組織(チームづくり)もまたサッカーと似ており、調子のいい時や流れの良い時は何も気にしないが、不測の事態や問題発生時(劣勢時、失点後)にはチーム力・個人のメンタリティが顕著に表れます。安定した結果を出し続けるチームは盤石な基礎(組織)を築いていることを証明しているようです。

 チームのカテゴリーに関係なく、サッカーは選手ひとりひとりに試合を迎えるまでのストーリーがあり、価値があり、結果があります。それはスタッフも変わりなく、加えて選手とつながる関係者も同じです。自分のためにプレーするということは、その試合に関わる多くの人のためにプレーするということです。プレーする価値やプレーできる価値を、自分以外の人たちにも向けられるようになったら、関西福祉大学サッカー部はさらに強くなっていくと思います。

 指導者が部員のキャラクターを変えられるということはなく、変えるなんておこがましいです。できることと言えば、上記のように選手の思考や姿勢に働きかけ、訴えかけ、それらを広げたり変えたりする導きだと思います。それはとても難しく、難しいがゆえにキャラクター(個性)を認める(理解する)ことと許容することはまったく違うということに気を付けなければなりません。受け入れながらも違うことにはしっかり線を引く…その基準はしっかり持っておく必要があります。

 後期リーグを戦って、目標が達成できなかったことで余計に「あの試合で」、「あのチャンスを」、「あのピンチを」といった悔やまれるものは出てくるかもしれません。けれど、これが結果であり、結果を出すために力を尽くしてきたのも自分たちです。その過程にやり残したことがなければ、次はもっといい結果が出せると信じています。振り返って反省することはとても大事ですが、その時に全力を尽くしているなら後悔することはありません。人はリセットする(元に戻す)ことはできないが、リスタート、リトライはできる。そして、そのタイミングは自分で決められる。過去を整理して現実を受け入れた時、気持ちを昨日ではなく今日と明日に向けられた時。思い描いた理想の未来は待っていてもやって来ることはなく、自らが立ち上がり、奮い立たせ、掴みにいくしかない。私は、そんな『今』を大事にする者にチャンスはやってくると考えています。

 

即今、当処、自己(そっこん、とうしょ、じこ)。

いま、ここ、じぶん。

 

 

 いま、ここで、じぶんがやる、という意味です。サッカー部創設前に聞いた言葉で、今も大切にしている言葉の一つです。誰もが良くも悪くも記憶に残る2020年になったことでしょう。過ぎ去ろうとするこの1年を確かに生きた足跡にして、来年の笑顔に向かってまた自分から動いていこうと思います。

 監督 中田洋平